値付けで損してませんか?中小企業経営者が知っておきたい価格設定の基本

佐々木智浩
- 千葉県出身、東京都在住
- 2021年5月「中小企業診断士」登録
- 2022年5月「経営革新等支援機関」認定

値付けで損してませんか?中小企業経営者が知っておきたい価格設定の基本

「価格はコストに利益を乗せて決めている」——多くの中小企業でよく聞く話です。

 

それ自体は間違いではありませんが、それだけで決めていると、知らず知らずのうちに機会損失が生じているかもしれません。

 

 

価格は、売上・利益に直結するだけでなく、お客さんの購買判断にも大きく影響する経営上の重要な意思決定です。本記事では、価格設定の考え方を「基本方針」「新製品の価格戦略」「価格設定の戦術」の3つに分けて整理します。

 


価格設定の3つの基本方針

 

価格を決める際の出発点には、大きく3つの考え方があります。

 

現実には1つだけで決めるのではなく、3つを組み合わせながら最終的な価格に落とし込んでいくのが実務です。

 

費用志向型:コストから積み上げる

 

最もオーソドックスな考え方です。

 

原材料費・人件費・諸経費といった製造コストに、広告費や配送費などのマーケティングコストを加えた総コストに、利益(マージン)を上乗せして価格を決めます。

 

原価 + マージン = 売価

小売業では「仕入原価に値入額を加える」形で計算するケースが多く、これを値入型価格設定(mark-up)と呼びます。

 

値入額は、店舗運営費・ロス・利益の3つをカバーできる水準に設定するのが基本です。

 

費用志向型はシンプルで管理しやすい反面、「市場がいくらなら払うか」という視点が抜けやすいのが弱点です。

 

コストを回収できても、値付けが相場より低すぎれば利益を取り損ねます。

 

需要志向型:お客さんの「払ってもいい」から逆算する

 

費用ではなく、お客さんが感じる価値(知覚価値)を起点に価格を決める考え方です。

 

「この商品なら○○円払ってもいい」と思ってもらえる価格帯を狙います。

 

もう一つ、需要差別型価格設定という手法もあります。

 

同じ商品・サービスでも、顧客・場所・時期によって異なる価格を設定する方法で、身近な例で言えばこんなものが該当します。

 

  • 顧客差別:学生割引、シニア割引
  • 場所差別:観光地や駅ナカの飲食価格
  • 時期差別:オフシーズンの旅行代金、早割

「なぜ同じ商品なのに価格が違うのか?」ではなく、「誰に・どんな状況で売るか」によって価格を柔軟に変えるのがこの考え方のポイントです。

 

競争志向型:競合の価格を基準にする

 

競合他社の価格水準を参考に、自社の価格を決める方法です。

 

業界の平均的な価格帯に合わせる実勢型価格設定と、入札案件で競合より低い価格を意図的に提示する入札型価格設定があります。

 

競争が激しい市場や、製品の差別化が難しい業種では、この考え方が主軸になりがちです。

 

ただし、価格だけで競うと利益が削れていく一方なので、自社のコスト構造と照らし合わせながら判断することが大切です。

 


新製品を出すとき、価格をどう設定するか

 

新しい商品・サービスを市場に出すとき、価格設定の方向性は大きく2つに分かれます。

 

どちらが正解というわけではなく、自社の商品特性と市場環境に合わせて選ぶことが重要です。

 

高めから入る:上層吸収価格戦略(スキミング)

 

導入当初は高価格に設定し、競合が出てきたら段階的に価格を下げていく戦略です。「初期高価格政策」とも呼ばれます。

 

新製品を最初に買うのは、価格よりも「新しさ」や「先進性」を重視するお客さんです。

 

この層は多少高くても買ってくれるため、早い段階で開発コストを回収できます。

 

競合が真似しにくい独自性の高い商品や、ブランド力で差別化できる場合に有効な戦略です。

 

安めから入る:市場浸透価格戦略(ペネトレイティング)

 

導入当初から低価格に設定し、一気にシェアを取りにいく戦略です。「初期低価格政策」とも呼ばれます。

 

「まず使ってもらう」ことが最優先で、早期にブランドの認知度と顧客基盤を確保し、競合が入ってきにくい状況を作ることが狙いです。

 

価格に敏感なお客さんが多い市場や、大量生産でコストを下げられる見込みがある場合、また競合に真似されやすい商品に向いています。

 

【2つの戦略の選び方】
独自性が高く模倣されにくい → スキミング(高めから入る)
差別化しにくく競争が激しい → 浸透価格(安めから入る)

 


価格設定の「戦術」:細かい工夫で売上は変わる

 

基本方針や戦略が決まった後、実際の価格をどう見せるかで購買行動は変わります。

 

ここでは現場でよく使われる価格設定の戦術を紹介します。

 

心理的価格設定:人間の感覚を活かす

 

価格は「数字」ですが、人はそれを心理的に受け取ります。

 

同じ価値の商品でも、見せ方で売れ行きが変わることがあります。

 

手法 内容 身近な例
端数価格 あえてきりの悪い価格をつけて「安い」印象を与える 1,000円 → 998円
プライス・ライニング(段階価格) 「特上・上・並」のように価格ランクを設けて選びやすくする 松竹梅のコース設定
プレステージ価格(名声価格) 高価格を維持して「高級・品質が高い」イメージを演出する 高級ブランド品、老舗の商品
販売促進型価格(目玉商品) 一部を安くして来店・来訪を増やし、他の商品も買ってもらう チラシの特売品、フロントエンド商品
慣習価格 長年定着した価格を変えると売上が落ちやすい 缶コーヒー、駄菓子
キャプティブ価格(補完的価格) 本体を安く売り、消耗品・オプションで収益を確保する 剃刀本体と替え刃、プリンターとインク

 

割引価格設定:インセンティブで動いてもらう

 

通常価格とは別に、特定の条件を満たした顧客や取引先に割引を設定する方法です。

 

  • 現金割引:即時払いの顧客に割引。貸し倒れリスクを減らしながら資金回収を早める
  • 数量割引:まとめ買いに割引。販売コスト低下分を還元するイメージ
  • 機能割引:販売・在庫管理など一定の機能を担う取引先(代理店など)への割引
  • 季節割引:シーズンオフ商品の在庫処分や需要の平準化を目的とした割引
  • リベート:一定期間後に後払いで還元する仕組み。流通業者との取引でよく使われるが、基準の不透明さがトラブルの原因になることも多い

まとめ:価格は「なんとなく」で決めない

 

価格設定は、コストを回収しつつ、お客さんに「払う価値がある」と思ってもらえるポイントを探す作業です。

 

費用・需要・競争の3つの視点をバランスよく持ちながら、商品の特性や市場環境に合った戦略・戦術を選ぶことが、利益を最大化する近道になります。

 

「なんとなくコスト積み上げで決めていた」という方は、今一度、お客さんの目線と競合の動向も加えて価格を見直してみてください。

 

わずかな価格設定の工夫が、売上と利益に大きな差をもたらすことがあります。

佐々木智浩
- 千葉県出身、東京都在住
- 2021年5月「中小企業診断士」登録
- 2022年5月「経営革新等支援機関」認定

立教大学社会学部を卒業後、無形サービス業の営業を15年ほど経験し、2017年に人材紹介会社を創業。自社経営しながら中小企業診断士を取得し、佐々木中小企業診断事務所を開業。経営支援先の得意業種は遊技機開発業・人材紹介業・EC通販業・小規模サービス業。得意な支援業務は、販路開拓・採用・補助金申請や事業計画書作成サポート。

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