中小企業でも使える!ファイブフォース分析で読み解く業界の競争構造と戦い方

佐々木智浩
- 千葉県出身、東京都在住
- 2021年5月「中小企業診断士」登録
- 2022年5月「経営革新等支援機関」認定

中小企業でも使える!ファイブフォース分析で読み解く業界の競争構造と戦い方

目次

 

ファイブフォース分析とは?その基本と重要性


「競合が増えてきて売上が伸び悩んでいる…」

「値上げ交渉しても、仕入先にすぐ断られる…」

そんな悩みを抱える中小企業にこそ使ってほしいのが、“ファイブフォース分析”です。

 

ファイブフォース分析の定義

 

ファイブフォース分析とは、米国の経営学者マイケル・ポーターによって提唱されたフレームワークで、業界の競争構造を分析するための手法です。この分析は、特定の業界における競争環境を5つの主要な要因(フォース)に分解し、それぞれの影響を評価することで業界内の競争力の源泉を明らかにします。これにより、企業は自社の立ち位置を明確にし、適切な競争戦略を策定することが可能となります。

 

分析の背景とマイケル・ポーターの理論

 

ファイブフォース分析は、マイケル・ポーターの書籍『競争の戦略』で広く紹介されました。この理論の背景には、業界内の競争を理解することが企業の持続的な成功を導く鍵であるという考え方があります。ポーターは、企業が競争優位を構築するためには、単に競合他社と直接対峙するだけでなく、新規参入の脅威や代替品の存在など、業界全体の競争環境を包括的に理解する必要があると指摘しました。これにより、どのような市場でも有効な競争戦略を立案するための指針を提供しています。

 

なぜ業界分析で利用されるのか?

 

ファイブフォース分析が業界分析で重宝される理由は、業界の構造的な競争環境を包括的に捉えることができる点にあります。このフレームワークを活用することで、伝統的な競合他社間の関係だけでなく、例えば新規参入者や代替品の影響、さらには買い手や供給者の交渉力といったさまざまな要因が収益性にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることが可能です。これにより、企業は市場の変化に対応するために必要な戦略をより正確に立てることができるのです。

 

なぜ中小企業にも重要なのか?

 

ファイブフォース分析は、大企業だけでなく中小企業にも有用です。その理由は、中小企業はしばしば限られたリソースの中で競争に打ち勝つ必要があるためです。この分析手法を活用することで、自社が直面する具体的な競争要因を把握し、無駄のない戦略を立案することができます。例えば、買い手や供給者との交渉力を最大化する方法や、競合他社との差別化を追求するポイントを明確にすることで、より効率的に市場シェアを拡大する機会が生まれるのです。そのため、中小企業にとっても自社を取り巻く業界の競争環境を理解することは極めて重要だと言えます。

 

ファイブフォースの5つの要因を詳細解説

 

競争相手はどこから来る?〜新規参入者の脅威

 

新規参入者の脅威は、業界の競争環境を大きく左右する重要な要因です。新規参入が容易な業界では、競争相手が増え、市場シェアの争奪が激化することで収益性が低下する傾向があります。特に、参入障壁が低い場合はその影響が顕著になります。たとえば、初期投資が少なく済み、技術の専門性が求められない業界では、新規参入のリスクが高まります。一方で、高い初期投資や厳しい認可制度が必要な場合、参入のハードルが高くなるため、既存企業にとって有利な状況と言えます。

 

うちの製品じゃなくてもいい理由は?〜代替品・サービスの脅威

 

代替品やサービスの脅威は、顧客が自社の商品やサービスではなく、代わりになる他の商品を選ぶ可能性を指します。これにより市場シェアが分散し、業界全体の収益性が低下することがあります。たとえば、技術革新により、同じニーズを満たすがより安価で便利な代替商品が登場する場合、既存の製品は競争力を失うリスクがあります。特に生活必需品よりも嗜好品市場でこの脅威は顕著になりがちです。

 

顧客にナメられてないか?〜買い手の交渉力

 

買い手の交渉力が強い業界では、販売者は価格を下げざるを得なくなり、収益性に悪影響を及ぼします。これは、顧客が多様な選択肢を持っている場合や、大量購買を行う大口の買い手が存在する場合に顕著です。たとえば、飲食業界のように多くの代替サービスが存在する市場では、顧客が価格やサービス品質を比較検討しやすいため、企業側が競争優位を保つために努力が必要です。

 

仕入先が強いとどうなる?〜供給者の交渉力

 

供給者の交渉力とは、原材料やサービスを提供する側の力がどれだけ強いかを指します。供給者が限定されている場合や特許技術を持っている場合、もしくは代替不可能な資源を提供している場合、供給者の交渉力は非常に高くなります。この結果として、仕入れコストが増加し、企業の利益を圧迫することになります。たとえば、食材の価格が市場価格に大きく影響を受けやすい飲食業界では、この要因が重要な競争要素となります。

 

業界内の敵は誰か?〜業界内競争の激しさ

 

業界内の競争の激しさは、狭義の「競争」として業界の収益性を大きく左右する要因です。同じ市場シェアを狙う競合他社が多い場合や業界全体の成長が停滞している場合、競争はさらに激化します。また、差別化が難しい商品やサービスを提供している場合、価格競争やプロモーション競争が起こり、結果として利益率が低下しやすくなります。たとえば、大手企業が多く競り合う通信業界では顧客獲得戦争が続いており、各社は差別化戦略を模索しています。

 

具体例で学ぶ!ファイブフォース分析の応用事例

 

マクドナルドの事例で理解する競争環境

 

マクドナルドの事例は、ファイブフォース分析を実際のビジネスにどのように適用できるかを理解するために非常に有効です。マクドナルドが属するファストフード業界を分析する際、例えば「新規参入者の脅威」については、店舗展開やブランド力、物流ネットワークといった高い参入障壁が競争優位性を支える要素になります。

 

一方で「競合企業間の敵対関係」では、他のファストフードチェーンとの価格競争や限定メニューでの顧客争奪戦が激化している事も見逃せません。さらに、原材料の供給を考慮すると「供給者の交渉力」も重要な要因であり、食材調達におけるコスト管理が企業収益を左右します。これらを総合的に分析すれば、競争の中でどのようにマクドナルドが市場での存在感を維持しているかを理解することができます。

 

IT業界の競争力を可視化する

 

IT業界では、新しいサービスや技術が次々と登場するため、ファイブフォース分析が業界分析において大いに役立ちます。「新規参入者の脅威」は、技術の壁や開発コストが減少している一方、ブランド構築や顧客基盤が参入障壁として作用するため、動きがダイナミックです。また、「代替品・サービスの脅威」については、伝統的なソフトウェアに対するクラウドサービスや、個別システムに対する統合プラットフォームシステムなどが市場を揺るがしています。同時に、「供給者の交渉力」では、サーバーの製造業者やクラウドインフラのプロバイダーとの関係性がビジネスに影響を与えることが特徴です。ファイブフォース分析を用いることで、IT業界の複雑な競争構造を具体的に可視化し、効果的な戦略を導き出すことが可能です。

 

新興市場における代替品の脅威を考える

 

新興市場では、代替品の脅威が業界の競争環境に直接的な影響を与えるケースが多いです。例えば、従来のガソリン車の市場では電気自動車(EV)が代替品として急速に普及しており、自動車業界全体のバリューチェーンに変革を迫っています。これにより、従来のサプライチェーンに大きな影響が出ており、さらなる技術革新やコスト削減が強く求められています。同様に、新興市場の食品業界では、代替肉や植物由来食品が従来の肉製品市場への脅威となっています。これらの現象をファイブフォース分析で捉えると、新興市場での競争状態を包括的に理解し、競争優位性を構築するための施策が見えてきます。

 

成功している企業とファイブフォースの関係

 

成功している企業の多くがファイブフォース分析を活用しているのは、業界の競争構造を正しく理解し、それを戦略に組み込んでいるからです。例えば、アマゾンは「供給者の交渉力」を抑えるため、自社物流ネットワークを強化し、供給依存度を低減しています。また、「買い手の交渉力」に対しては、消費者にとっての利便性や価格競争力を強化することで、購買意欲を高めています。このように、ファイブフォース分析を活用することで、競争要因をコントロールし、収益性の高いビジネスモデルを実現する基盤を作り出しているのです。ファイブフォース分析とは、競争環境を深く理解し、持続的な競争優位性を築くための重要なツールで、グローバル企業だけでなく、地域で事業を営む中小企業にも応用できます。ここでは都内の美容室を例に見てみましょう。

 

あなたにも当てはまる”身近な視点

 

例えば、東京都内で美容室を経営するある中小企業では、ファイブフォースすべての要因が日々の経営に影響しています。

 

・新規参入の脅威:開業資金が比較的少なく済むため、新規サロンの出店が相次ぎ、既存店の顧客流出リスクが高まっています。

・代替品の脅威:最近ではセルフカット用の機器や訪問美容など、顧客ニーズを満たす“別の選択肢”が登場しています。

・買い手の交渉力:ホットペッパービューティーなどの比較サイトによって顧客が価格やクーポンを基準に選ぶ傾向が強まり、単価維持に苦労するケースも。

・供給者の交渉力:カラー剤や設備業者との契約条件が店舗ごとに異なり、スケールメリットを持つ大手と比べて不利になりやすい側面も。

・業界内の競争:地域密着であるがゆえに「同じエリア内での差別化」が常に求められます。

 

このように、業界分析のフレームワークであるファイブフォース分析は、地域で奮闘する中小企業の経営判断にも十分役立つ実践的ツールであることがわかります。

 

初心者向け!ファイブフォース分析を効果的に活用する方法

 

分析を始めるための準備ステップ

 

ファイブフォース分析を効果的に活用するためには、まず準備段階をしっかりと整えることが大切です。最初のステップとして、自社が属する業界の範囲を明確にしましょう。同じ業界でも市場の細分化により、競争環境は大きく異なるためです。また、競争や競合環境を把握する前に、会社の置かれた位置や市場での役割を理解することも重要です。続いて、分析のための情報を収集する計画を立て、必要なデータや資料を揃えます。この段階を丁寧に進めることで、実際の分析作業がスムーズに進むでしょう。

 

データ収集・情報整理の具体的な流れ

 

ファイブフォース分析では、正確なデータ収集と情報整理が結果の信頼性を左右します。まずは、事業に直接関連するデータを収集することが必要です。業界レポート、市場調査、競合他社のウェブサイト、ニュース記事などが貴重な情報源となります。この情報を5つの要因(新規参入者の脅威、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力、業界内競争)に整理して分類します。この整理の段階では、それぞれの要因が自社の収益性や競争環境にどの程度影響を与えるかを検討することがポイントです。情報を漏らさず整理することで、現状把握がしやすくなります。

 

効果的な結論を導くためのヒント

 

効果的な結論を導き、競争戦略を立案するためには、各ファイブフォースの要因を冷静に評価する必要があります。例えば、競争が激しい場合は差別化戦略を検討し、新規参入者の脅威が高い場合は参入障壁を高める方策を探ることが考えられます。また、業界の収益性を左右する最重要要因を特定し、その要因に対する具体的な対策を立てることが大切です。この分析結果を基に、自社が他の競合に対して取り得る立場や、いかにして業界内で競争優位を築くかを明確にしましょう。仮説を設定し、それに基づくシナリオを想定することで、より実践的な結論を導けます。

 

分析だけで終わらせない!ファイブフォース分析を実務で活かす方法

 

ファイブフォース分析を実務に役立てるには、分析結果を基に具体的なアクションプランを立案することが重要です。例えば、買い手の交渉力が強い場合、付加価値の高い製品やサービスを開発し、価格競争に陥らないようにする戦略が考えられます。また、新規参入者の脅威に対しては、自社ブランドの信頼性を高めるマーケティング施策や、技術的優位性を確保するための投資計画を立てることが有効です。さらに、分析の結果やアクションプランを経営陣や関係部門に共有し、全社一丸となって取り組む仕組みを作りましょう。こうした実務への落とし込みが、ファイブフォース分析を本当の意味で価値あるものにします。

 

ファイブフォース分析の限界と注意点

 

動的な市場環境への対応が必要

 

ファイブフォース分析は、業界の競争構造を分析する上で非常に有効なフレームワークですが、動的に変化する市場環境には十分な対応が難しい場合があります。特に、技術革新や規制の変更、新興市場の成長などが激しい業界では、競合状況や収益性に大きな変化が起こる可能性があります。例えば、デジタル化が進む現在の市場では、競合他社だけでなく新たなビジネスモデルや革新的な技術が業界構造を一変させるケースもあります。そのため、分析結果に固執するのではなく、適宜市場環境の見直しを行うことが重要です。

 

分析結果の解釈で陥りがちな落とし穴

 

ファイブフォース分析を行う際に注意が必要なのは、分析結果を主観的に解釈しすぎないことです。例えば、新規参入者の脅威を過小評価する、または市場内競争の激しさを一般化しすぎると、誤った結論に至る可能性があります。また、この分析は「現状」を基に業界を把握するものですが、未来の市場動向や変化に対応する洞察を与えるものではありません。そのため、ファイブフォース分析の結論はあくまで参考情報として利用し、実際の競争戦略を策定する際には他の定性・定量的な情報を組み合わせることが必要です。

 

他のフレームワークとの併用のすすめ

 

ファイブフォース分析は業界の競争構造を理解するために有効ですが、包括的な戦略策定を行うためには他のフレームワークとの併用がおすすめです。例えば「SWOT分析」を組み合わせることで、自社の強みや弱みをより具体的に考慮した戦略の構築が可能になります。また「4P分析」や「3C分析」を利用することで、マーケティング面や顧客ニーズへの対応を考慮した競争戦略を練る手助けとなります。これらのフレームワークと組み合わせることで、ファイブフォース分析の欠点を補いながら、より実践的で詳細な戦略を策定することができます。

 

長期的な視点で分析を活用するために

 

ファイブフォース分析を有効に活用するためには、長期的な視点を持つことが大切です。このフレームワークは主に業界全体の分析を目的としていますが、変化が激しいビジネス環境では持続可能な競争優位を築く戦略が求められます。そのため、短期的な競争の激化や市場の変化に対処するだけでなく、業界の収益構造や競合関係を継続的に評価し、戦略を更新していくことが必要です。また、新たな市場への参入や革新的な事業開発など、未来志向の取り組みを視野に入れることで、より競争力の高い企業戦略を実現できます。

 

ファイブフォースを活かすための3つのヒント

 

ファイブフォース分析は優れたフレームワークですが、それを経営に活かすにはちょっとした“使いこなしのコツ”があります。ここでは、実務で効果を高めるための3つのヒントをご紹介します。

 

「業界」定義を細かく絞ろう

 

ファイブフォース分析は「業界分析」が前提ですが、その“業界の範囲”を曖昧にしたままだと、結論もぼやけてしまいます。たとえば「飲食業界」と一括りにせず、「都心部のテイクアウト専門店」「高単価な焼肉店」など、地域・価格帯・業態で具体化することで、分析の精度が一気に高まります。

 

「主観」を入れすぎない。客観データで補強しよう

 

経営者自身の肌感覚や仮説は大切ですが、それに頼りすぎるとバイアスがかかりやすいです。商工会議所の業界統計、中小企業白書、競合の販促事例、顧客アンケートなど、客観情報も使って補完すると説得力ある戦略につながります。

 

「気づき」をアクションに落とし込もう

 

分析は“考えたら終わり”ではなく、「だから何をするか?」に落とし込んでこそ意味があるもの。例えば「買い手の交渉力が強い」なら「値下げせずに済む付加価値をつける」、「新規参入が多い」なら「顧客との関係性を強化するCRM施策を打つ」など、戦術やプロジェクトに落とし込むことが実務では大事です。

 

経営は感覚とロジックのバランスが重要です。ファイブフォース分析は、そのロジック面を補強してくれる強力なツール。自社に合った使い方で、ぜひ日々の戦略立案に活かしてみてください。

佐々木智浩
- 千葉県出身、東京都在住
- 2021年5月「中小企業診断士」登録
- 2022年5月「経営革新等支援機関」認定

立教大学社会学部を卒業後、無形サービス業の営業を15年ほど経験し、2017年に人材紹介会社を創業。自社経営しながら中小企業診断士を取得し、佐々木中小企業診断事務所を開業。経営支援先の得意業種は遊技機開発業・人材紹介業・EC通販業・小規模サービス業。得意な支援業務は、販路開拓・採用・補助金申請や事業計画書作成サポート。

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