範囲の経済と規模の経済の違いをやさしく解説!ビジネスパーソン必読のエッセンス

佐々木智浩
- 千葉県出身、東京都在住
- 2021年5月「中小企業診断士」登録
- 2022年5月「経営革新等支援機関」認定

範囲の経済と規模の経済の違いをやさしく解説!ビジネスパーソン必読のエッセンス

範囲の経済とは何か

 

範囲の経済の基本的な意味

 

範囲の経済とは、企業が事業の多角化や製品・サービスの多様化を行うことで、コスト削減や利益率向上といった経済的なメリットを得る現象を指します。具体的には、複数の製品やサービスを同時に提供することで、共有する資源や設備を最大限に活用し、生産や運営の効率を高める取り組みです。

 

例えば、既存の販売チャネルや物流システムを流用して新事業を立ち上げる場合、初期投資を抑えつつ新たな利益を生むことができます。このように、範囲の経済を活用することで、企業は事業を拡大しながらコストも抑えることが可能です。

 

範囲の経済

 

具体例で見る範囲の経済

 

範囲の経済を説明する代表的な企業にAmazonがあります。この企業は、ネット通販を主軸としながら、クラウドサービスのAWSやストリーミングサービスなど、異なる事業を展開しています。これらの事業間では、物流ネットワークやブランド力、顧客データといった資産を共有することで、事業全体の効率性を向上させています。

 

また、ソニー株式会社も範囲の経済を活用した成功例として挙げられます。同社は、エレクトロニクス、エンターテインメント、金融など複数の事業を展開しています。それぞれの事業間で技術やノウハウを活用することで、シナジー効果を生み出し、事業全体の価値を向上させています。

 

範囲の経済とシナジー効果の関係

 

範囲の経済を成功させるためには、シナジー効果の創出が重要です。シナジーとは、事業や要素同士が相互作用し合い、単独の取り組み以上の成果を生む現象を指します。例えば、1つの製品ラインで開発した技術やリソースを別の製品ラインに応用することで、個別に動くよりも高い効果を実現することが可能です。

 

シナジー効果

 

 

シナジー効果の種類には多くのものがありますが、生産シナジーや販売・流通シナジーが範囲の経済において特に重要です。例えば、生産シナジーでは既存の工場設備を新製品の製造にも活用することでコスト削減を図れます。一方で、販売・流通シナジーは、異なる製品を同一の販売チャンネルを通じて顧客に提供することで、物流やマーケティング費用の削減につながります。

 

このように、範囲の経済とシナジー効果は密接に関連しており、企業が事業間や資産間の相乗効果を最大化することで、経済的メリットを享受できるのです。

 

規模の経済とは何か

 

規模の経済の基本的な意味

 

規模の経済とは、企業が生産規模を拡大することで、1単位あたりの平均コストを削減できる現象を指します。同じ製品やサービスを大量に生産・提供することで固定費が分散され、1つあたりの生産コストが大幅に削減される仕組みです。この考え方は、生産規模が大きいほど効率性が高まり、競争力の強化につながるため、多くの企業が成長戦略の中で重視しています。

 

規模の経済

 

規模の経済の効果が現れる仕組み

 

規模の経済の効果が現れる仕組みとして、まず挙げられるのが固定費の分散です。例えば、製造工場で新しい設備を導入した場合、その設備費用は一定ですが、生産量が増加することで単位あたりの設備負担が小さくなります。また、原材料の大量購入による仕入れ価格の交渉力向上や、物流コストの削減も規模の経済による効果の一部です。さらに、大量生産によって製造の効率性が向上し、労働集約的なプロセスが自動化されることで、変動費そのものも削減されます。

 

具体例で見る規模の経済

 

規模の経済が明確に表れる一例としては、自動車メーカーが挙げられます。トヨタやフォルクスワーゲンといった大手自動車メーカーは、膨大な台数を生産することで、部品の大量仕入れや効率的な組み立て工程の実現を可能にしています。その結果、1台あたりの生産コストが抑えられ、競争力のある価格設定が実現します。また、ファストフードチェーンも規模の経済を活用している企業の例です。同じ食材を大量に調達し、多店舗展開を通じて物流やオペレーションコストを効率化することで、顧客に低価格での提供が可能となっています。

 

範囲の経済と規模の経済の違いを徹底比較

 

 

範囲の経済と規模の経済の違い

 

1つの事業 vs 複数事業:何が違う?

 

範囲の経済と規模の経済の最も大きな違いは、対象となる事業の広がりにあります。範囲の経済は、企業が複数の事業や製品・サービスを同時に展開することによって、資源を効率的に共有し、シナジー効果を得ることを目指します。一方、規模の経済は、単一の事業や製品に集中し、大量生産を行うことで単位当たりのコストを削減します。たとえば、範囲の経済ではAmazonがEC事業に加えAWSや音楽ストリーミングを展開して事業間で相乗効果を発揮するのに対し、規模の経済ではトヨタが特定の車種を大量生産することでコストを抑制しています。この違いが企業の戦略やリソース配分に大きく影響を与えるのです。

 

コスト削減の仕組みとその影響

 

範囲の経済と規模の経済はどちらもコスト削減を目的としていますが、その仕組みは異なります。範囲の経済の場合、ある事業の資源や知識を別の事業に活用することでコストを削減します。たとえば、技術やブランド力、販売チャネルの共有により、マーケティングや運営コストを抑えることが可能です。特にシナジー効果が期待される場面では、「1+1=3」となるような成果が得られます。一方、規模の経済では、生産量を増やすことで材料費や生産ラインの単位コストを下げる効果が働きます。例えば、同じ機械設備を長時間稼働させることで、固定費が薄まります。どちらも競争力を高める武器となりますが、コスト削減のアプローチの違いが、事業成長の形に影響を与えるのです。

 

どちらを選ぶべきか?ビジネスモデルによる選択

 

範囲の経済と規模の経済のどちらを選択すべきかは、企業のビジネスモデルや目指す方向性によります。たとえば、シナジー効果を最大限活用するには、複数の事業を持つ範囲の経済が適しています。具体的には、既存のブランドを活かして新しい分野に進出する場合や、多角化による市場規模の拡大を狙う場合がこれに該当します。一方、規模の経済は、業界トップクラスの生産力やコストパフォーマンスで市場を制したい場合に効果的です。特定の製品やサービスに集中し、大量生産による低コストを武器に価格競争で優位に立つことを目指します。したがって、企業規模や市場環境、成長戦略を考慮し、どちらの経済効果を優先するかを慎重に判断することが重要です。

 

範囲の経済・規模の経済を活かした成功事例

 

範囲の経済を利用して成功した企業の例

 

範囲の経済を最大限に活用して成功した一例として、Amazonが挙げられます。Amazonは、もともとオンライン書店として始まりましたが、その後、電子機器、食品、ファッションなど、多岐にわたる分野に事業を拡大しました。この多角化により、物流ネットワークや顧客データを活用したシナジー効果を生み出し、コスト削減とサービスの付加価値向上を実現しています。また、プライム会員プログラムを通じたクロスセル戦略は、違う分野の商品を結び付けることで範囲の経済をさらに強化しています。

 

規模の経済で効果を上げた実例

 

規模の経済を活用して成功した企業の代表例として、トヨタ自動車があります。トヨタは、同一の自動車部品を複数モデルに共通化することで、部品の大量生産によるコスト削減を実現しました。また、効率的な生産方式であるトヨタ生産方式(TPS)を活用し、規模の拡大に伴う効率性の向上を実現しています。同一製品を多く製造することで、販売コストや物流コストを含む1台あたりのコストを削減し、競争力を向上させています。

 

どちらもバランスよく活用した事例

 

範囲の経済と規模の経済をバランスよく活用した企業として、ソニー株式会社が挙げられます。ソニーは、エレクトロニクス事業、エンターテインメント事業、金融事業など、多分野での事業展開を行っています。例えば、音楽コンテンツや映画制作といったエンターテインメント事業のコンテンツをエレクトロニクス機器(テレビやゲーム機器)を通じて提供することで、シナジー効果を生み出しています。一方で、規模の経済も追求しており、電子部品の大量購入や生産ラインの効率化を実現しています。このように、範囲の経済による価値創出と規模の経済によるコスト削減を同時に図ることで、市場での優位性を確立しています。

 

規模の経済と範囲の経済を効果的に取り入れるためのステップ

 

範囲の経済 規模の経済 シナジー効果

 

自社戦略を見直し、経済効果を最大化する方法

 

規模の経済や範囲の経済の恩恵を最大化するには、自社の戦略を見直すことが重要です。まず、自社の事業モデルが「規模の経済」による大量生産や効率化に適しているか、それとも「範囲の経済」によるシナジー効果を追求すべきかを明確にする必要があります。例えば、同一製品の生産拡大でコストを削減できる場合は規模の経済に注力する一方で、多様な製品展開による相補効果を最大化する場合は範囲の経済が有効です。

 

次に、市場における顧客ニーズや競争環境を分析し、それに応じた適切な資源配分を行うことも欠かせません。特に、多角化戦略を採用する場合は、既存の資産やブランド力を活用しながら、無駄なコストが発生しないよう管理を工夫することが必要です。また、シナジー効果を高めるために、製品間の補完関係(コンプリメント効果)や技術の共有が可能かを検討することも有効です。

 

市場や競争環境を考慮した意思決定

 

市場や競争環境に応じた意思決定は、規模の経済と範囲の経済を効果的に活用する上で鍵となります。例えば、競争が激しい市場では、規模の経済を活かし、生産コストを削減して価格競争力を高めることが求められる場合があります。一方で、新しい市場への参入や差別化戦略が求められる場合は、範囲の経済を活用した多角化が有効です。

 

さらに、意思決定の際には事業ポートフォリオの最適化にも注力しましょう。収益性や成長可能性の高い分野にリソースを集中させ、低収益分野の適切な処理(撤退や統合)を進めることが大切です。このような戦略を通じ、範囲の経済と規模の経済のバランスをとることで効果的な経営が実現できます。

 

注意点:不経済が生まれるリスクとその回避策

 

範囲の経済や規模の経済を追求する際には、「不経済」と呼ばれるリスクに注意が必要です。範囲の経済では、事業の多角化が過剰になると管理コストが増大し、逆に非効率になる範囲の不経済が生じることがあります。例えば、複数の事業に分散しすぎて、集中力が欠け、顧客価値が低下するケースです。

 

規模の経済においても同様に、大量生産に過度に依存すると在庫の抱え込みや需要変動への対応が遅れ、結果的にコストが増える規模の不経済が発生するリスクがあります。

 

これらのリスクを回避するには、以下のポイントを押さえることが重要です。まず、自社が持つリソースや実現可能性と市場ニーズを正確に把握すること。次に、多角化や生産拡大を進める際には、慎重な計画と定期的な見直しを行い、適切な経済効果が得られるか検証することが必要です。

 

シナジー効果を強化する取り組みも不可欠です。事業間の連携を密にし、相互に補完し合える体制を整えることで、不経済のリスクを軽減し、範囲の経済や規模の経済を効果的に実現できます。

佐々木智浩
- 千葉県出身、東京都在住
- 2021年5月「中小企業診断士」登録
- 2022年5月「経営革新等支援機関」認定

立教大学社会学部を卒業後、無形サービス業の営業を15年ほど経験し、2017年に人材紹介会社を創業。自社経営しながら中小企業診断士を取得し、佐々木中小企業診断事務所を開業。経営支援先の得意業種は遊技機開発業・人材紹介業・EC通販業・小規模サービス業。得意な支援業務は、販路開拓・採用・補助金申請や事業計画書作成サポート。

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