初心者でもわかる!アンゾフの成長マトリクス徹底解説

佐々木智浩
- 千葉県出身、東京都在住
- 2021年5月「中小企業診断士」登録
- 2022年5月「経営革新等支援機関」認定

初心者でもわかる!アンゾフの成長マトリクス徹底解説

アンゾフの成長マトリクスとは?

 

アンゾフの成長マトリクスの概要と目的

 

アンゾフの成長マトリクスは、企業が取るべき事業戦略を四象限で整理したフレームワークです。このマトリクスは、1960年代にイゴール・アンゾフによって提唱されたもので、事業の成長を実現するための方法を市場(既存市場・新規市場)と製品(既存製品・新規製品)の2つの軸で視覚化します。これにより、企業はどの方向性で成長を目指すべきかを明確にできるのが特徴です。

 

このマトリクスの目的は、企業が持続的な成長を図るうえで、どのような市場戦略を取るべきかを考えるためのガイドラインを提供することにあります。さまざまな経営環境に適応するため、アンゾフの成長マトリクスは現代でも経営戦略の重要なツールとされています。

 

「市場」と「製品」の2軸とは?

 

アンゾフの成長マトリクスでは、「市場」と「製品」の2軸を用います。「市場」は企業がターゲットとする顧客層を指し、既存市場と新規市場に分けられます。一方、「製品」は企業が提供する商品やサービスを指し、既存製品と新規製品に分類されます。

 

この2つの軸を掛け合わせることで、企業の成長戦略を4つの象限で表現することが可能になります。それぞれの象限は異なる成長の方向性を示しており、自社の現状や目指す方向に応じて戦略を選択することで、効率的な事業展開が期待できます。

 

4象限の基本構造とその意味

 

アンゾフの成長マトリクスは、「市場(既存・新規)」と「製品(既存・新規)」の組み合わせにより4つの象限で構成されており、それぞれ以下の戦略を指します。

 

アンゾフの成長マトリクス

 

市場浸透戦略

既存製品を既存市場でさらに浸透させる戦略で、主に市場シェアの拡大を目指します。

 

市場開拓戦略

既存製品を新しい市場に展開する戦略で、新しい顧客層を取り込むことを目指します。

 

製品開発戦略

既存市場に対して新しい製品を投入する戦略で、既存顧客への価値提供を強化します。

 

多角化戦略

新規市場に新規製品を投入する戦略で、大きなリスクを伴う一方で新たな事業機会を生み出します。

 

 

これらの象限は、企業が成長を目指す際の具体的なアプローチを明確にする役割を果たします。

 

なぜアンゾフの成長マトリクスが注目されるのか

 

アンゾフの成長マトリクスが注目される理由は、その分かりやすさと実用性にあります。このマトリクスは、企業の成長戦略を選定する際にシンプルな視点を提供し、多くの事例や業界で適用することが可能です。

 

さらに、競争激化や市場環境の変化が著しい現代において、企業がどの方向性で成長を追求するべきかを効率よく判断できる点も重要です。また、マトリクスを通して、リスクとリターンのバランスを事前に分析できるため、戦略の成功率を高める助けになります。

 

アンゾフの成長マトリクスの4つの戦略

 

アンゾフの成長マトリクスの4つの戦略

 

戦略1:市場浸透戦略

 

市場浸透戦略は、アンゾフの成長マトリクスにおいて既存の製品を既存の市場でさらに拡大させる方法を指します。この戦略は、現在の市場シェアを高めることを目的としており、競合他社から顧客を奪う、既存顧客の購入頻度を増やす、あるいは販売活動を強化して新しい顧客を獲得するなどの手法が一般的です。

 

市場浸透戦略は、リスクが比較的低いとされ、製品や市場への追加的な大規模投資が不要なため、多くの企業が最初に取り組む成長戦略とも言えます。ただし、市場規模が限られる場合や競争が過熱する場合には、効果的な差別化戦略も併せて検討する必要があります。

 

戦略2:市場開拓戦略

 

市場開拓戦略は、既存の製品を新しい市場に展開する方法です。この戦略では、地理的な拡大、新しいセグメントへの進出、海外市場への参入などが含まれます。たとえば、国内市場で成功した製品を国際市場で販売する際に活用されるケースがよくあります。

 

新たな市場へ進出する際は、ターゲット市場の需要特性や文化的背景を理解することが重要です。また、現地市場に適応するために、販売チャネルの再検討や現地のパートナーとの提携が必要になることもあります。

 

市場開拓戦略は、多くの場合で新たな市場知識や人材、リソースなどが求められるため、慎重な計画が必要です。

 

戦略3:製品開発戦略

 

製品開発戦略は、既存の市場において新しい製品を開発し、提供する成長戦略です。この戦略では、既存の顧客ニーズに応える新しい製品やサービスを導入するか、技術革新によってさらに魅力的な製品を開発することが一般的です。

 

例えば、定評のある家電メーカーがエコ家電の新シリーズを展開する場合や、ソフトウェア企業が既存プラットフォームに付加価値を加えた新バージョンをリリースする場合などが含まれます。

 

製品開発戦略は、新製品を開発するための研究開発費やマーケティング費用を伴うため、リスクと費用が大きくなる可能性があります。しかし、成功すれば競争優位性を大きく高めることができます。

 

戦略4:多角化戦略

 

多角化戦略は、アンゾフの成長マトリクスにおいて最もリスクが高い戦略とされています。これは、新しい市場に新しい製品を投入することを指します。この戦略は、現在の市場と製品の範囲を超え、全く異なる領域に進出する取り組みを含みます。

 

例えば、自動車メーカーがバッテリー生産に進出したり、食品メーカーがヘルスケア製品を発売したりするケースなどが挙げられます。多角化戦略は、企業が市場の変化やビジネス環境の不確実性に対応してリスク分散を図る際に採用されます。

 

ただし、多角化には新しい専門知識や設備投資が必要となり、実行には綿密な計画とマーケットリサーチが求められます。そのため、慎重に評価した上で決定することが不可欠です。

 

アンゾフの成長マトリクスを活用するメリット

 

戦略別リスクとリターンの比較

 

組織の成長方向を明確化できる

 

アンゾフの成長マトリクスを活用することで、組織の成長戦略を具体的に整理し、方向性を明確にすることができます。このフレームワークでは、「市場」と「製品」の組み合わせを基に4つの戦略(市場浸透戦略、市場開拓戦略、製品開発戦略、多角化戦略)を分類します。それにより、成長を図るためにどの市場、どの製品に注力すべきかを明確化することが可能です。また、これにより組織内で共通の目標認識を持つことができ、戦略実行の効率が向上します。

 

リスク分析と管理の支援

 

アンゾフの成長マトリクスは、各戦略に伴うリスクを視覚的に理解するためのツールとしても役立ちます。例えば、市場浸透戦略は既存市場と既存製品を活用するためリスクが低いとされる一方、多角化戦略は新市場と新製品を扱うためリスクが高い戦略とされます。このマトリクスを活用することで、自社がどの程度リスクを許容できるかを考慮しながら、適切な成長戦略を選択することができます。また、リスクの高さを事前に把握することで、問題が発生した際の対策準備も進めることができます。

 

既存の資源の有効活用

 

アンゾフの成長マトリクスを活用することで、組織内の既存資源を効率よく活用する方法を見つけることができます。特に市場浸透戦略や製品開発戦略では、既存の市場や製品、リソースを基に成長を図るため、大きな追加投資を必要とせずに効率的な戦略が実行可能です。これにより、無駄な資源配分を避け、最大限の効果を引き出すことができます。既存資源を活用することで短期的な収益改善にもつながるため、長期的な計画と並行して即効性のある成長も目指すことが可能です。

 

事例で学ぶアンゾフの成長マトリクスの実践例

 

市場浸透戦略の成功事例

 

市場浸透戦略は、既存製品を既存市場でさらに展開し、市場シェアの拡大を目指す戦略です。この戦略の成功事例として、飲料メーカーが特定のブランドを通じてプロモーションや広告活動を強化し、販売量を大幅に伸ばしたケースがあります。例えば、コカ・コーラが地域ごとのマーケティング活動を徹底的に行い、競合を退けながら販売シェアを拡大したのが代表的です。このように、競争が激しい既存市場において市場浸透戦略を成功させるには、効果的なマーケティングやプロモーションが鍵となります。アンゾフの成長マトリクスに基づき、限られた市場で最大限に価値を引き出すことが可能です。

 

市場開拓戦略の成功事例

 

市場開拓戦略は、既存製品を新しい市場に展開することで成長を目指すアプローチです。この戦略の成功事例として、ファストフードチェーンが進出していなかった海外市場への拡大に成功したケースが挙げられます。マクドナルドは、すでに成功を収めていたアメリカ市場からアジア市場へ進出し、現地の需要に合わせたマーケティングと現地適応型のメニューを展開することで、巨大な成功を収めました。このように、市場開拓戦略を実現するには、新市場の文化や消費者ニーズを徹底的に理解し、柔軟な戦略を構築することが重要です。

 

製品開発戦略の成功事例

 

製品開発戦略は、既存の市場へ新しい製品やサービスを投入することで成長を目指す方法です。成功事例として、テクノロジー企業が既存の顧客基盤を基に新製品を導入し、売上を大幅に伸ばしたケースがあります。たとえば、Appleは既存のiPhone顧客向けにAirPodsを発表し、魅力的なデザインと利便性を武器に大きな市場を獲得しました。このように、アンゾフの成長マトリクスの視点で新製品を開発する場合、既存顧客の好みやニーズを反映させた製品設計が成功のポイントとなります。

 

多角化戦略の成功事例

 

多角化戦略は、新しい市場に新しい製品を投入することで成長を目指します。この戦略の成功事例として、企業が全く異なる業界に進出し成功した場合が挙げられます。例えば、電機メーカーのソニーが映画製作やゲーム分野に進出し、既存の電子製品事業とは異なる分野で成長を果たしたことがよく知られています。多角化戦略を成功させるためには、高いリスクを取る覚悟と新事業への十分な資源投入、そして市場調査が欠かせません。アンゾフの成長マトリクスを活用すると、新たな事業展開でも方向性を整理してリスクを最小化することが可能です。

 

アンゾフの成長マトリクスを最大限活用するポイント

 

ターゲット市場を正確に分析する

 

アンゾフの成長マトリクスを正しく活用するためには、ターゲット市場の正確な分析が必要不可欠です。市場の特性や顧客のニーズを把握することで、どの成長戦略が適しているかを判断できます。たとえば、既存市場における競争環境や顧客の嗜好を調査することで、市場浸透戦略の潜在的成功確率を高めることができます。また、新市場開拓戦略を検討する際には、その市場がどの程度成長可能性を秘めているかを予測することが重要です。正確な市場分析は、限られたリソースを効果的に活用するための基盤となります。

 

現状の資産とリソースを見直す

 

企業が成長戦略を選定する際には、自社が保有する資産やリソースを見直すことが欠かせません。例えば、自社の製品ラインアップや技術力、人的リソース、財務基盤などが十分であるかを確認する必要があります。新製品開発戦略や多角化戦略は特にリソースの投入が求められるため、自社の強みと弱みを把握しておくことで、リスクを最低限に抑えて適切な戦略を採用できます。アンゾフの成長マトリクスは、自社の内部資源と外部環境を総合的に考慮するための効果的なツールです。

 

各戦略におけるリスクとメリットを勘案する

 

アンゾフの成長マトリクスの4つの戦略には、それぞれ異なるリスクとメリットがあります。例えば、市場浸透戦略は既存市場を活用するためリスクが低い一方で、競争が激化する可能性があります。一方、多角化戦略はリスクが高いものの、新しい収益源を得られる可能性があります。このため、各戦略を採用する前にリスクとメリットを慎重に評価することが重要です。リスクを十分に把握し、それを管理する計画を立てることで、戦略の実行をよりスムーズに進めることができます。

 

競合他社の動きを把握する重要性

 

市場や製品戦略を考える際には、競合他社の動きも把握する必要があります。競合が進出を予定している市場や開発中の製品を注意深く観察することで、自社が取るべき差別化戦略を立てやすくなります。また、競合が採用している成長戦略を参考にすることで、多角化戦略や市場浸透戦略などの有効性について洞察を得ることが可能です。アンゾフの成長マトリクスは他社との差別化を図るための助けとなり、競争優位を築くための指針を提供してくれるでしょう。

佐々木智浩
- 千葉県出身、東京都在住
- 2021年5月「中小企業診断士」登録
- 2022年5月「経営革新等支援機関」認定

立教大学社会学部を卒業後、無形サービス業の営業を15年ほど経験し、2017年に人材紹介会社を創業。自社経営しながら中小企業診断士を取得し、佐々木中小企業診断事務所を開業。経営支援先の得意業種は遊技機開発業・人材紹介業・EC通販業・小規模サービス業。得意な支援業務は、販路開拓・採用・補助金申請や事業計画書作成サポート。

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